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異世界探索

         

  

              異世界探索


           第一章 異世界探知機

 

         

 

 多分、俺は今異世界、と、思われるところにいる。

 何故そう思うのかというと、周囲の空間にはひとっこひとり見当たらないからだ。完全なる無人の世界。更に言えば、車もバイクも何も走っていない。そして悪いことに、さっき、化け物らしきものまで目にしちまった―――何か髪が長くて、顔のない、巨大な女みたいなやつ―――白いワンピースみたいなのを着ててさ。身長は十五メートルくらいあるんだ。俺の見間違いであってくれればいいんだけどさ―――。

 あんな化けも物みたいなのに遭遇するなんて聞いてない。だから、俺は嫌だって言ったんだ。今更ながら久美子に腹が立ってきた。久美子がこの案件を引き受けようって言ったとき、俺は何か嫌な予感がするから嫌だって言った―――いや、言おうとしんだ―――だけどさ。

でも、金に目がくらんだ久美子は、俺が意見する前に勝手に仕事を引き受けちまった。おかげで、今俺はこんなことになっている。

 もし、無事にもとの世界に帰れたら、そのときは覚えておけよ、と、俺は心のなかで久美子に対して握り拳を作った。

 

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 話は前後するようだけど、久美子っていうのは、俺の妹であり、同僚だ。ふたりで便利屋的ことをやっている。ちょっとした家具の組み立てだったり、あるいはおじいさん、おばあさんのスマホの設定の手伝いだったり、行方不明になってしまった猫探しだったり、なんかんや。

 儲かる儲からないで言ったら、そりゃあ、全然儲からない。兄妹ふたり、どうにかこうにか死なない程度に生きていくのが精一杯だ。というか、最近はそれすら怪しくなってきてて、だから、今、俺はこんなことになってる。

 ここ二ヶ月ほどは家賃も滞納していて、ケツに火がついている状態だった。だから、妹―――久美子は、金に目が眩んだんだ。胡散臭さ満点の仕事を、俺の意見をよく聞きもしないで引き受けちまったんだ―――いや、そりゃあまあ、はっきり意見しなかった俺もちょっとは悪いんだけどさ。

 ぶっちゃけ、確かに、報酬は悪くなかった。もし守備よく問題を解決することができれば、報酬はなんと三百万! と来た。もし仮に問題が解決できなくても、ちゃんと問題解決に向けて取り組んでくれさえすれば、百万円出すって、依頼主は言うんだ。

 それで、金に困っていた久美子は、一も二もなく飛びついたっていうわけだ―――というか、厳密にいえば、俺も、なんだけど。

 で、肝心の依頼内容はというと、失踪して行方がわからなくなってしまっている妹を探してくれっていうものだった。

まあ、こう見えても、俺と久美子は探偵業務的なことも過去何度か熟している。といっても、それは浮気調査だったから、今回の依頼内容とはちょっと違う―――というか、だいぶ違うんだけど、でも、行方不明になってしまった猫探しの応用でなんとかなるだろうって思ったんだよ。依頼主から仕事のオファーが来たとき。

 でも、直前で気が変わることになった。それは何でかっていうと、依頼主が口にした言葉が妙だったからなんだ。

依頼主は何て言ったと思う?

「多分、妹は異世界に迷い込んでしまったんだと思うんです」

 て、言ったんだ。

 初顔合わせの事務所で。もちろん、真顔で。というか、ちょっと悲しそうな顔つきで。

その台詞を耳にしたとき、あ、これはやべえやつだって思った。妹が行方不明になっててそれを探して欲しいっていうのはわかるんだけどさ、でも、多分異世界に迷い込んでしまったと思うなんて本気で口にするやつはヤバイだろ?

 だから、俺は断ろうとしたんだよ。

 でも、久美子のやつが、依頼主の口にした報酬にすっかり目が眩んじゃってさ。さっきも言ったけど。俺が断ろうとしてるのに、どんどん勝手に話を進めていくんだ。まあ、その場ではっきり自分の意見を口にしなかった俺も悪いといえば悪いんだけどさ。

 でも、それにしたって、久美子は傍にいる俺のことなんて一顧だにしないで、もうこの仕事は引き受けます的なノリで話を進めていくんだよ。「どうして妹さんは行方不明になってしまったの?」だとか、「どこで行方不明になってしまったの?」だとかさ。傍で見てた俺に口を挟む余地なんてなかったね。はっきり言って。

 あ、一応説明しておくと、依頼主は女で、かなり可愛いんだ。俺は知らなかったんだけど、妹の久美子の話によると、依頼主は結構有名な芸能人らしい。人気のテレビドラマとかにも出てるって話だ。俺はあんまテレビとか見ないから知らなかったんだけどさ。あ、これはもう言ったか。歳は俺よりも若くて、二十六、七歳ってところだろうな。

 ここでついでに俺の自己紹介をしておくと、俺の名前は徳井健太っていう。年齢は三十五歳。わりと背は高い方で、痩せ気味。顔は普通かな? というか、自分じゃ、普通だと思ってるんだけど、他人から見たらどうなんだろう? まあ、想像に任せるよ。独身で、もちろん、子供はいない。

 で、話を戻すと、その可愛い女―――依頼主―――谷原麗奈は言うんだよ。自分の妹はオカルトの類を好む傾向にあって、それで都市伝説、それも異世界系のユーチュバーとして人気が出始めていたところだったって。

 何でも谷原麗奈曰く、彼女の妹―――雪菜は、一年ほど前から都市伝説系の動画をユーチュウブに投稿しはじめて、それで最近人気が出始めたところだったらしいんだ。それまでは一万人くらいしかいなかったチャンネル登録者数が、急に十万人近くまで増えたらしいんだよ。

 ちなみに、俺は試しに、その雪菜のユーチュウブのチャンネルを観てみたんだけど、まあまあ面白かった。彼女のユーチュウブのスタイルは、ただ都市伝説を紹介するだけじゃなくて、実際に現場まで足を運んで検証するっていうものなんだ。都市伝説系のユーチューバーって結構多いけど、でも、実際に現場に足を運んだりするひとっていうのは、珍しいから、俺は面白く感じた。あと、雪菜もお姉ちゃんに似てて、結構可愛い―――あ、これは関係ないか。

ところで、実をいうと、俺も一攫千金を夢見て、一時期ユーチューバーを目指してたことがある。で、結果はどうだったのかっていうと―――聞いて驚くなよ? 一年間毎日のように動画を投稿し続けて、チャンネル登録者はたったの四人。しかも、その四人っていうのは、俺と、俺の友達ときたもんだ。嬉しくて涙がでるよ。ほんとに。

 悪い。また話が逸れた。

 それで、なんだったけ? そうそう。人気が出始めていた雪菜が行方不明になっちまったって話だ。

 姉の麗奈曰く、妹の雪菜が失踪してしまったとき、妹の雪菜は、ユーチュウブの企画で、人間が実際に異世界に迷い込んでしまったことになっている土地を色々と巡ってたらしいんだ。で、その出先で彼女―――雪菜は行方がわからなくなってしまったって話なんだよ。というか、これはあくまでも麗奈の推測であって、正味なところはわからないみたいなんだけどさ。

 というのも、麗奈が把握しているのは、妹の雪菜が最近異世界紹介系の動画を作ってたってことだけらしいんだ。で、そんな動画を作っている最中に雪菜は姿を消しちまったから、麗奈は、当然妹は動画作成中に失踪してしまったと踏んでるみたいなんだ。

 もちろん、姉の麗奈も色々―――妹の雪菜が行きそう場所とか、自分なりに探してみたらしいんだけどさ、でも、全然見つからなかったって話なんだ。最終的には警察にも相談したらしいんだけどさ、でも、まだ雪菜は見つかってないらしい。

 というか、麗奈からすると、妹の雪菜は絶対に異世界に迷い込んでしまってるはずだから、その線で警察には捜査してもらいたいのに、でも、警察は全然その方向性では調べようとしてくれないから、それが麗奈からするとちょっと―――というか、かなり不満だったらしい。

 でも、まあ、そりゃあそうなるわな。警察が異世界とかそんな胡散臭い話を真に受けるわけがないんだから。というか、もし真に受けたとしたら、それはそれでちょっと問題あると思うよ。

 とはいえ、麗奈にしてみれば、雪菜は絶対に異世界に迷い込んでしまってるはずだっていう確信があるらしくてさ、それで俺と久美子のふたりに白羽の矢が立つことになったらしい。麗奈は、俺たちであれば、ちゃんと自分の話に耳を傾けてくれて、ちゃんと自分の意向に沿った捜査をしてくれるだろうって思ったみたいなんだ。

 ちなみに、麗奈は俺たちがネットに出してる広告を見て、俺たちの存在を知ったみたいだ。何でも彼女の説明によると、俺たちの広告には何かピン! と来るものがあったらしい。俺たちなら多分ちゃんと自分の話を聞いてくれるだろうって。それで彼女は俺たちに相談することに決めたっていう話だ。

 それにしても、麗奈は俺たちの広告の一体どこを見て、ピン! と来たんだろうなって思うよ。だって、俺たちが出してる広告には、一言も、これっぽっちも、都市伝説系の調査も承ってますなんてことは書いてないんだ。書いてあるのは、簡単な調査も―――たとえば猫探しも承ってますっていうことくらいのもので―――でも、まあ、いいか。とにかく、麗奈は俺たちの広告を見て、俺たちなら信頼できそうかもって思ってくれたらしいんだ。まあ、そういわれて、べつに悪い気はしない。

 で、広告を見たっていう麗奈からのメールが先日届いて、それでつい最近事務所で麗奈と初顔合わせをすることになったんだ。仕事内容だとか、報酬についてだとか、そういった諸々について決めるために。

 あ、一応補足しておくと、俺たちの事務所は荻窪にあるんだ。その雑居のビルの五階。そしてだいたい想像つくと思うんだけど、もちろん俺たちの事務所って超ミニマムなのよ。

 て、また話がそれたけどさ、麗奈に荻窪まで来てもらって、それで今まで述べてきたような話を俺たちは麗奈から聞かされることになったってわけだ。つまり、麗奈の妹が今行方不明になってて、妹を探して欲しいってことと、多分妹は異世界にいるんじゃねぇかって話。

 それでもう話したけど、俺たちは麗奈の仕事を引き受けることになったんだ。というか、厳密にいうと、仕事を引き受けることになったのは俺なんだけさ。ていうのも、久美子には情報収集だったり、事務仕事だったり、そういう裏方的な仕事を任せてあるんだ。だから、今回みたいな実際に足を使って調査したりする系の仕事は、必然的に俺が担当することなる。まあ、いくつか仕事をかけもちしてるときはこの限りじゃないにしてもさ。

 

     3

 

 はっきり言って全然気は進まなかったけど、でも、気が付いたとき、俺は麗奈の仕事を引き受けることになってた。

 ていうか、これはもう既に話したか。そういうわけで、行方不明にっている雪菜を探しはじめた俺なんだけども、当然、探してはじめて速攻雪菜が見つかるわけもない。というか、どこから探し始めればいいのかもわからない状態だったから、ひとまず俺は雪菜が一人暮らしをしているマンションを訪ねてみることにしたんだ。もしかしたら、そこに何か重大なヒントが転がっているかもしれないと思ったからさ。

 もちろん、もちろん、俺は勝手に雪菜のアパートに上がり込んだわけじゃないぜ? 一応断っておくけどさ。ちゃんと、姉の麗奈に許可をもらって、そんでもって、鍵を拝借して、雪菜の部屋にはあがらせてもらったんだ。

 ちなみに、全然関係ないんだけど、雪菜は都内の一等地にある2LDKの小洒落たマンションに住んでた。チクショー。ユーチューバーってそんな儲かんのかよ‼ チャンネル登録者数十万って、そんなめっちゃすげぇってわけでもないのさ。

 て、悪りぃ。またまた話がそれた。

で、話を戻すと、雪菜の部屋は、もう警察がさんざん調べつくしたあとらしくて、俺が雪菜の部屋を調べてみても、特にこれといって何か捜査の参考になりそうものは何も見つからなかった。まあ、このあと、通常であれば、雪菜の交際関係とかを当たったりするんだろうけど、でも、そういうのはパスすることにした。だって、そういうのは当然警察がやってるはずだろ?

 だから、俺はちゃんと依頼主の求めに従った行動をすることにしたんだ。つまり、雪菜は本当に異世界に迷い込んでしまったものと仮定して、俺は捜査を開始することにしたんだよ。というか、もともとそのつもりだったんだけど、でも、それにしたって、雪菜の部屋を一応は確認しておく必要があるかなって思ったんだ。言い訳みたく聞こえるかもしれないけどさ。

 

     4

 

 さて、ここで質問です。皆さんは異世界とは何かご存じかな? 

 え? そんなもん知ってるって? 

 まあ、そうかもしれない。でも、知らないひともいるかもしれないから、一応説明しておく。

 異世界っていうのは、今巷で流行ってる異世界転生ものとは全然違う。ひとが死んだあと、ファンタジー世界に転生するなんていうことはまずあり得ないけどさ、でも、俺が今から述べようとしている異世界ってのは、まだしも現実味があるものなんだ。とはいっても、これも異世界に転生することに比べれば、まだ少しは現実味があるかなってくらいのレベルのものでしかないんだけどさ。

 異世界っていうのは、要するに、パラレルワールドだ。みんなもパラレルワールドっていう言葉くらい聞いたことがあるだろ? 今ハリウッドのヒーローものじゃ、当然の概念みたいになってきてるしさ。

 たとえば、俺が朝起きて顔を洗うか、洗わないでおくか迷ったとするだろ? それで、結果的に洗わないことを選んだとする。

 すると、このとき、世界はふたつに分岐するらしいんだ。俺が顔を洗った世界と、洗わなかった世界とに。更に興味深いのが、そのあと、つまり、顔を洗わなかった俺が、朝食にパンを食べるか、それともご飯を食べるかで迷ったとして、それでこのとき、ご飯を食べることを選んだとすると、またまた世界は分岐することになるらしいんだ。俺がパンを食べることを選んだ世界と、そうじゃない世界とに。そうしてこういうのは際限なく繰り返されていくことになるらしいんだ。また更に、一番最初に分岐した世界の俺―――つまり、顔を洗うことを選んだ俺は俺で、同じように際限なく世界を分岐させていくっていう話なんだよ。

 もしこれが本当のことだとすると、この世界は本当に途方もない数の世界で溢れかえってるってことになっちまうから、さすがにそんなにいちいち分岐したりはしないんじゃないかっていう意見もあるみたいなんだけどさ―――仮にパラレルワールドが存在していたとしても、その数はひとつか、多くでもせいぜいふたつくらいまでなんじゃないかって―――でも、結局、本当のところは誰にもわからないみたいだな。そもそも、パラレルワールドなんて存在しないって言ってる学者もいるし。誰にも実際のところはわからないらしい。

 ちなみに、このパラレルワールドが存在しているかもしれないことの論拠となっているのは、量子の二重スリット実験の結果によるものらしい。

 これは実際とは違うんだけど、でも、わかりやすくするために話を単純化しちまう。みんな、自分の目の前に、縦に細長い―――ピンポン玉が通り抜けられるくらいの穴が空いた板があるところを想像してみて欲しい。それで、みんなはその板に空いた穴に向かってピンポン玉を投げ込むんだ。それも、何十回となくな。

 ちなみに、その縦に細長い穴の向こう側には白い壁があって、投げたピンポン玉はその壁に当たって、壁にはピンポン玉がぶつかった跡がつく設定になっている。

 このとき、壁にはどんな跡がつくことになると思う? 

 うん、そうだ。当然、壁の向こうには縦に細長い形をしたピンポン玉の跡がつくことになる。そうだよな?

 ところが、実験結果は観測者―――外でみんながピンポン玉を投げているのを観察しているやつがいるときと、そうでないときとで、全然結果が異なってくるっていう話なんだよ。

 要するにだな、観測者がいる場合は、みんなが思っている通りの結果になる。つまり、縦に細長い形をしたピンポン玉の跡が壁には残ることになるんだよ。

 でも、観測者がいない場合は、干渉縞―――つまるところ、縦に細長い穴が空いた板が横一列にズラリと並んでいて、そこに大勢の人間がピンポン玉を投げ込んだときにしかつかないような跡が残ることになるんだ。

 で、こんなふうにひとが見ているときと、見ていないときで、観測結果が異なってきてしまうのは、ひとが観測したときにはじめて、この世界では結果が確定することなるんじゃないかって話なんだ。

 逆にいうと、ひとが観測していないときは、あらゆる可能性が同時に存在しているんじゃないかって話で、これがパラレルワールドの存在を示唆してるっていわれてるんだ。

 まあ、もっとも、この俺の説明はかなり乱暴だし、詳しいひとが聞いたら、なんだそのお前の説明はって腹を立てるかもしれないけどさ、でも、だいたいの概要としては間違ってないと思うんだよ。

 とにかく、何が言いたいのかっていうと、パラレルワールド、異世界は、実在している可能性があるってことだよ。

 ところで、俺がこうやって曲がりなりにもパラレルワールドについて知っているのは、もともと俺がこういった話に興味関心を持っていたからじゃない。雪菜のユーチューブの動画を一通り全部観てみたからなんだ。

 雪菜は、俺がさっき説明したよりももっとずっと詳しく異世界、パラレルワールドについて解説してくれてて、かなり参考になった。最初、姉の麗奈から依頼を受けたときは、異世界にひとが迷い込むなんて、そんなバカな話あるわけねぇだろ、くらいにしか思ってなかったのが、だんだんと案外そうでもないかもって思えてきた。ひょっとしたら、ワンチャンそんなこともあるんじゃねぇかって。

 実際、日本では年間八万人ものひとが行方不明になってるんだとさ。とはいっても、そのうちの大半は無事見つかってるみたいなんだけどさ。でも、なかにはどれだけ探しても見つからないってパターンも存在するみたいなんだ。

 たまにあったりするだろ? 神隠し的な事件が。女子高生がある日突然行方不明になって、ずっと何日も行方がわからないままで、それであるとき、わけわかんない場所で見つかったりするような事例が。

 ああいうのって、実は異世界、パラレルワールドに迷い込んじまってたってパターンもありそうだよな?

 結果的にそいつはもとの世界に戻ってこれたけど、なかには異世界に行ったまま戻れなくなくなっちまうパターンだってあるのかもしれない。

 あ、それで思い出したんだけどさ、雪菜の動画観てたら、異世界に迷い込んじまう系の話で、すげぇ有名な話があるんだってな? 確か『きさらぎ駅』って名前の話。みんなは知ってるか? 

 て、知ってるか。俺はあんまこういう話に疎いから雪菜の動画を観てはじめて知ったんだけどさ。ていうか、知らないやつもいるかもしれないから一応簡単に説明しておくと、『きさらぎ駅』っていうのは、西暦二千年初頭に流行った、有名なネットロアなんだ。はすみっていう名前の女性が、夜電車に乗ってると、いつの間にか現実には存在しない駅―――きさらぎ駅に辿り着いて、それで様々な怪奇現象を体験した挙句、行方不明になっちまうっていうおちの話だ。

 さっきおちって言ったけど、本当のところはわからない。実際に起こったことである可能性も少しはあるみたいだ。というのは、この『きさらぎ駅』っていうのは、ケータイを使って実況中継形式で書かれてるんだよ。で、最後はしりきれとんぼ―――つまり、無事もとの世界に帰ることができたっていう記載がないまま終わってるから、もしかしたら、本当にはすみは異世界に行ってしまったんじゃないかって説も存在してるみたいだ。

 でも、まあ、普通に考えればそれはないだろう。というか、これは十中八九、作り話だろうな。はすみってやつは常日頃から『きらさぎ駅』の構想を練ってて、それである程度アイディアがまとまったところで、いかにも実況中継してます的なノリで書いていったんだろうな。それで最後、異世界に取り残されてしまったような形で中継を終わらせることも、最初から構想にあったんだろうなって思うよ。まあ、断言はできないけどさ。

 とはいえ、雪菜の動画を見て『きさらぎ駅』の存在を知った俺は怖くなったよ。夜ひとりで電車に乗るのはやめておこうと思ったもん。特に田舎の電車に乗るのはさ。

 しかし、雪菜の動画を観てると、どうも異世界に関する体験談っていうのは、電車とか、その界隈に集中してるみたいだな。みんなだいたい電車に乗ってるときだったり、その付近にいるときに、異世界っぽいものを目撃してるみたいだ。もちろん、いつくかの例外はあるにしてもさ。

 異世界駅も『きさらぎ駅』以外に色々あるみたいだな。たとえば『やみ駅』だったり、『かたす駅』だったり、『霧島駅』だったり。内容はどれも存在しないはずの駅を目撃したっていうものなんだけど、でも、『きらさぎ駅』とは違って、体験者はみんな一応現実の世界に帰って来ることができてるみたいだ。興味があるやつはわりとどの話も有名みたいだから、ネットで調べてみてくれよな。


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