こちらはkindleから既に出版している『VIMANA』の一部を掲載したものになります。
第1章 発掘された謎の遺跡
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宮崎空港の自動ドアを潜って、今、ひとりの若い女の子が外に出て来た。背中のあたりまで伸ばされた髪の毛は明る過ぎない茶色に染められている。少し細い、綺麗な二重の瞳は、いくらか気が強そうな印象を見るひとに与えるものの、そこには明るく、活発そうな光が宿っている。
顔立ちもまずまず整っている方だ。体型は細身で、余分なものがなにもついていないといった感じがある。身長は百六十五センチで、それは日本人女性の平均身長からすると、やや高い方かもしれない。
装いは長ズボンにポロシャツ一枚といった格好で、オシャレさよりも、動きやすさに重きを置いているといった感じがある。これから旅行にでもいくところなのか、彼女の背中には大きなリュックがあった。
早坂小百合は宮崎空港のロビーから外に出ると、大きく息を吸った。吸い込んだ空気は気のせいか、東京に比べると瑞々しく、澄み渡っている気がする。そして、微かに、海の匂いがした。真夏の太陽の光が、眩しく小百合の目を打つ。小百合は立ち止まると、周囲の景色を見回してみた。空港の駐車場を取り囲むようにして、ヤシの木を彷彿とさせる、背の高い木々が植えられている。まるでハワイに来たみたいだ。小百合は思った。もっとも、まだ小百合は一度もハワイを訪れたことはないのだが。
「気持ちの良い天気ですね」
小百合のあとに続いて、ロビーから出てきた藤島さやかが明るい声で言った。
藤島さやかは小百合が通っている大学のひとつ後輩だ。彼女は目が大きく、表情が楽しそうによく動く。髪の毛の長さはショートボブで、それを明るすぎない茶色に染めていた。体型はすらりとした細身の体型で、背の高さは百五十五センチとやや小柄だった。彼女も動きやすいさを重視した、長ズボンにティシャツ一枚といった格好をしている。さやかの背中にも重そうなリュックがひとつあった。
「ほんとだね」
と、小百合はさやかの方を振り返ると、微笑んで相槌を打った。そして改めて、よくこんな今時の女の子といった感じのする娘が、自分の所属しているオカルト研究会に入ってくれたものだな、と、小百合は感心するというよりも不思議に思った。
ちなみに、小百合は大学でオカルト研究会というサークルに入っている。そして小百合はその部長を務めている。付け加えておくと、さやかは小百合の所属しているオカルト研究会の唯一の一年生だった。
「ちょっと、置いていかないでよ」
ふたりのあとから続いてロビーの自動ドアを潜って出来た、細身の、青年が軽く口を尖らせて抗議するように言った。
彼の名前は佐藤健一といい、小百合と同じオカルト研究会に所属している。ついで言うと、彼の役職は副部長である。背は高くもなければ低くもなく、百七十二センチである。顔立ちは比較的整っている方ではあるが、どちらかというと女の人のように綺麗な顔立ちをしていて、それがやや気弱そうな印象を見る者に与えていた。
彼の装いもティシャツにジーパンといった、ごく普通の、動きやすそうな格好をしている。前者のふたりと同様に、彼の背中にも大きなリュックがあった。
今、宮崎空港のロビーから出て来たこの三人が、小百合が通っている大学の、オカルト研究会の全メンバーだった。一応、四年生がべつに四名いることはいるのだが、彼等は就職活動が忙しく、今はサークルの活動には全く参加していない。
ちなみに、小百合と健一のふたりがともに二年生で、さっきも説明したように、さやかは一年生である。年齢は小百合と健一のふたりがともに二十歳。さやかが十九歳であった。
部員が全部合わせても七名しかいないオカルト研究会はまさに存亡の危機に立たされているわけだが、しかし、今のところ、それを改善できる目途は全く立っていなかった。大学の入学式あとのオリーエーテーションではそれこそみんな必死になって勧誘したのだが、オカルトに興味がある、もしくはこれから興味を持ってもよいと思ってくれる人間は皆無であるしらく、今年新たに入部を決めてくれたのは、さやか、唯一ひとりだけであった。それも、辛うじてなんとかといったところだったのである。
諦めかけた小百合が、もう声をかけるのはこれで最後しようと思って声をかけたのが、たまたまさやかだったのだ。あのとき、諦めていたら、今頃さやかという一年生の存在はなかっただろうと小百合は思った。
小百合たちは入学式以降も学食の掲示板に張り紙を出す等して、新しい部員を募集し続けていたが、今のところ、残念ながら、問い合わせは一件もなかった。どうやったらみんなにもっとオカルトの面白さを理解してもらえるだろうと小百合はこのところ頭を悩ませる日々だった。
今回、オカルト研究会の三人が宮崎空港に降り立ったのは、とある目的があってのことだった。それは、毎年恒例となっている夏合宿を行うためである。
小百合が所属しているオカルト研究会は、毎年夏休みになると、どこか特定の場所を決めて、その土地に関するオカルト研究を行うのが慣例となっているのだが、今年はその場所に宮崎県が選ばれたのである(というのも、三人が夏合宿の候補地を選んでいる際に、宮崎県の日南市という場所で、たびたび奇妙な現象が報告された。たとえば地元の高校生が神隠しにあって姿を消してしまったという話や、UFOらしきものの目撃談、さらには海岸の岩場付近で、未知の遺跡らしきものの発見まであった)。
だから、三人は満場一致で、宮崎県の日南市を合宿地として定めた。特に、今回の重要なポイントとなるのが、日南市の油津港付近だった。というのも、その付近で、謎の遺跡らしきものは発見されたのである。
それは、未知の文字らしきものだった。楔形文字に似た、しかし、そうではない文字らしきものが、その油津港付近にある、あまりひとが立ち寄らない崖で発見された。そこは断崖絶壁に近い、険しい斜面になっており、普段は釣り人しか立ち寄らないのだが、そのときたまたまそこを訪れていた中学生が、その崖の岩場付近に、文字らしきものが刻まれているのを発見したのだ。
中学生はその見つけた遺跡らしきものをすぐに学校の先生に報告したのだが、何しろ田舎の小さな町であるため、誰もそれがなんであるのか理解することができなかった。
しかし、その後、その中学生が見つけたという古代文字の噂は徐々に広まっていき、やがて噂を聞きつけてやってきたアマチュア研究家が調査を行った。そしてその結果をインターネット上に公表した。
それは、古代に海に沈んだとされている、レムリア文明のものではないか、というものだった。
そのアマチュア研究家が発表した結果は、インターネット網を駆け巡り、日本全国各地に瞬く間に拡散した。しばらくすると、その、これまでに見たことのない文字群は、テレビ等のメディアでも大々的に取り上げられることになった。多くの報道陣や、取材関係者、または野次馬が、その遺跡らしものが見つかった地に押しかけた。テレビでも何度か謎の古代遺跡と称されて特集が組まれたりもした。
しかし、間もなく、大学の専門家が、古代文字のように見えるものは、崖が崩れてそのとき露出した岩の形状がたまたま文字のように見えたものであると結論付けたため、たちまちそれまでの熱狂的な騒ぎは失速してしまった。今では小百合たちのようなオカルトファンくらいしか、宮崎県の日南市の油津にある岩場を訪れる者はいなかった。
小百合たちは空港のロビーを出ると、それから、電車に乗り換えて、一旦、南宮崎駅まで出た。そこで軽く昼食を食べたあと、三人は南宮崎駅から出でいる油津駅まで向かう電車に乗り込んだ。南宮崎から油津駅までは、おおよそ一時間程度の乗車時間である。
三人が乗った電車は比較的空いていて、三人は向かい合わせに腰掛けた。窓の外には鮮やかな青色をした海を臨むことができた。夏の強い日差しを浴びて、海は眩しく乱反射している。水平線の向こうには大きな入道雲が見え、それはまさに夏の景色といった感じがした。
道に沿って植えられている椰子の木に似た木々が、南国感を演出していて、小百合はつかの間、自分がオカルト研究会の合宿に来ているのだということを忘れてしまいそうになった。
「なんかこの際、合宿のことなんて忘れて、このままパッと気ままに海水浴にでも行きたい気分よね」
小百合は窓の外に向けていた視線を、他の部員の顔に向けると、冗談めかした口調で言った。
「わたし、一応、水着持ってきたんですよ」
小百合の隣に腰掛けているさやかがはしゃいだ声で言った。
「じゃ、海水浴いっちゃう?」
小百合はさやかの顔を見ると、悪戯っぽい笑みを口元に浮かべて言った。
「ちょっと、ふたりとも、本来の目的、忘れてない?」
と、それまで黙ってふたりのやりとりに耳を傾けていた健一が可笑しがっている口調で言った。
「それはもちろん、時間があまれば海水浴くらいしてもいいと思うけど、でも、取り敢えず今は、調査のことを考えないと」
「まあ、確かに」
小百合は健一の指摘に微苦笑して頷いた。
「つい、綺麗な海に魅了されちゃいましたね」
と、さやかも苦笑して言った。
「確かに、綺麗な海は魅力的なんだけどね」
と、健一は窓の外に見える海にうっとりした眼差しを注いで言った。
三人はそれから少しの間、窓の外に見える明るいブルーをした海に、黙って視線を彷徨わせていた。
「だけど」
しばらくの沈黙のあとで、小百合は健一とさやかの顔を見ると、話しかけた。
「ついこのときが来たのね」
小百合はきらきらと瞳を輝かせて言った。
「わたし、この夏合宿の日が来るのを心待ちにしてたの。実を言うと、夜も眠れなかったくらい」
小百合は微笑して言いながら、夏合宿の場所が決定してからのこの一ヶ月ばかりの日々を思い返した。
小百合はこの日のために必死にアルバイトをしてお金を貯めた。ちなみに、夏合宿は一週間を予定していて、かなりの金額がそれで消えていってしまうことになった。一応、宿は上手い具合に、健一の親戚が日南市で民宿を経営していて、そこにただ同然の料金で宿泊させてもらえることになっていたが。
しかし、それとはべつに、東京から宮崎まで飛行機代や、食費代等を工面する必要があり、それらの予算を捻出することは、あまり裕福とは言えない小百合にとって簡単なことではなかった。
しかし、反面、小百合としては、それだけのお金を投資するだけの価値が、今回の合宿にはあると確信していた。何かもの凄い発見があるというような予感が、小百合のなかにはあった。
「僕もこの目で謎の古代文字を目にすることができるんだと思うと、わくわくして眠れなかったよ」
と、健一も楽しそうに微笑んで言った。
「一体どんなものなんでしょうねぇ」
と、さやかはまるでどこかの憧れの地を思い浮かべるときのような、遠い目をして言った。
「でも、もし、それが本物だったとしたら、それは大発見よね」
小百合は興奮のために、やや声を大きくして言った。
「古代の失われた文明が、まさか、この日本に在ったなんて」
「レムリア大陸が、実は日本の、宮崎に在ったなんて到底信じられないような話だけど、でも一応レムリアは太平洋側に在ったとされているし、しかも、海に沈んでしまったらしいから、今回の発見は全くのデタラメとも言えないんじゃないかな?」
健一は明るく瞳を輝かせて言った。
「さすがにレムリアの首都が宮崎に在ったなんてことはないだろうけど、でも、辺境の一都市くらいだったら、こういうところにあったとしても、べつにおかしくはない気がするな」
「もしかしたら、今回わたしたちが日南の油津で更なる大発見をしたりして!」
さやかも健一に続いて楽しそうな口調で言った。
そのようにして三人は、周囲の人間に胡散臭そうな目で見られているのも構わずに、油津駅に辿り着くまでのあいだ、ノンストップで失われた古代文明について熱く語り続けた。
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